満月と新月 - 3/4

    三

 照明の落とされたホテルの一室。
 やけに上質で大きなベッドの上。
 無様に全裸を晒して寝そべる俺。
 それに覆い被さる、知らない男。

 性行為の知識には笑えるほど疎かった。
 まして同性同士など最早未知の領域だ。
 そんな俺でも理解できたことがひとつ。
 これは強姦という名の売春行為である。
 それだけだった。

 始めはただ苦痛なだけだった。
 触れる掌は、さながら虫が這い回るかのようだった。
 性器を扱かれる感触は、まるで排尿を促されているかのようだった。
 体内を犯す肉の熱に、全身が溶かされていくような気がした。

 苦痛なだけのはずだった性行為が快感に変わる。
 思えば俺は、苦痛を快感にすげ替える才能があったのかも知れない。
 痛かったのは事実だ。
 苦しかったのも事実だ。
 辛かったのもまた事実だ。
 そしてその隣には快感があった。
 理由など、知りたくもない。

 ある日の相手は、プロリーグ運営委員会の幹部だった。
 ある日の相手は、俺を気に入った地下の上客だった。
 ある日の相手は、デュエルを辞退したいと嘆願に来た対戦相手だった。
 ある日の相手は、大手デュエル雑誌の編集長だった。

 地を這い蹲って勝利を貪るしか能のない俺を、奴はあらゆる手を使って売り込んだ。
 これはそんな手段のひとつに過ぎない。
 拒否権など皆無だ。
 否。
 これは義務だった。
 拒否してはならないという義務なのだ。
 デュエルにしがみ付き、渇望する勝利を得るためには悍ましくも必要な儀式だった。

 愛人のように男の甘言に耳を傾けることも。
 情婦のように男の愛撫を甘受することも。
 娼婦のように自らの意思で脚を開くことも。
 女のように男の肉を受け入れて鳴くことも。

 どんなに身体が拒否反応を示しても――
 それら肉の触れ合いをいいもの・・・・として受け入れなければならない。

 どんなに固く記憶に封を施しても――
 自分自身がとった選択をなかったこと・・・・・・になど、できはしない。

 これらは全て、拒絶しなかった俺の罪であり罰である。