曙光 - 1/3

    一

 僕は、理想のセックスについて想いを馳せていた。

 啄むようなキスが段々と深く、熱烈なものに変わる。
 ただ身を寄せ合うだけだったのが、次第にきつく身を擦り付け合うようになる。それはまるでマーキングのような。
 やがて真っ白なシーツの海に縺れながら飛び込み、互いを隔てる布きれを一枚一枚剥がす。
 そうして顕わになった愛しい人の素肌を、貪るように求め合う。

 あまりにもふざけた妄想だと揶揄されるかも知れないが、僕はいたって真剣だ。
 しかし一口に理想・・とはいうものの、画一的な定義に当てはめるつもりはない。人の数だけ目指すものがあることも十分承知している。
 だからこそ、僕は僕の思い描く最高のセックスを追い求めたい。

 僕の目指す理想のセックスとはつまり――〝愛の確認作業〟

 これこそ、数多の恋路を応援してきた実績がある僕だからこそ目指せる理想であろう。これまで手を差し伸べてきた者達は皆、このような甘酸っぱい願いを持っていた。それはとても純粋かつ尊いものだと知っている。いつか僕に恋人ができたときにはこの理想を鮮やかに実現して、最高のひとときを過ごしたいと常々考えていた。
 因みに夜景の美しい五十階層目のスイートルームが理想だ。
 僕は〝恋の魔術師〟を名乗る傍ら〝恋する者〟でもあった。相手は、学園の頂点に君臨し、周囲からは〝皇帝カイザー〟とあだ名される彼である。この僕が同性とだなんて、と言われてしまうかも知れないが、むしろ恋の魔術師だからこそ同性でも自然に付き合えるというもの。恋には様々な色や形があることを知っているから。
 そんな僕らだが、一年強に渡る遠距離恋愛のような倦怠期を経てようやく、次の段階に進めることになった。
 そう、冒頭で述べたセックスである。
 学生の時分では如何に心が通っていても、その先に進むことはお互いに躊躇われた。どこに目があるかも判らないし、何より当時の僕らは未成年である。何かあったときに責任を取るのは自分ではない。だからこの学園を出て成人してから先に進もうと決めていたのだ。
 結果は言わずもがなである。二十歳はたちを迎えても、僕が学園に残ったままでは会うに会えない。会えたとしても、異世界やダークネスなどのゴタゴタでそれどころではなかった。
 だから卒業を目前に控えた今なのだ。全ての問題が片付いたところで、僕は意を決して彼に申し込んだ。
 彼は一瞬面食らったような顔をしたが快く承諾してくれた。「なんだ、覚えていたのか」と溜め息交じりに言っていたが、その顔は実に嬉しそうだった。心臓の病で療養生活を送っているせいか、妙に綺麗に笑うようになったと思う。ジェネックスで見た苛烈さが嘘のようだ。
 彼だけが巣立って一年と数ヶ月。本来なら僕も巣立たなければ成せなかった愛の確認作業だが、皮肉にも彼が異世界で命を散らせたことで前倒しされる運びとなった。正直複雑な心境ではあるが、ほんの少しの間でも肩書きを気にせずに過ごせると思えば悪くないような気がした。色々あった五年間だから、前向きに考えようと思う。

 そんなこんなで、紆余曲折あった僕らの交際は、この夜、華やかな局面を迎えようとしていた――はずだった。