皿 ※R18 - 1/3

 廃墟と化した町外れの教会には、奇妙な噂があった。
 それはいつから住人の間で知られるようになったのか。気付いたときには広まり、定着していた。

〝布を被った信者の幽霊が、夜な夜な教会に集まって祈りを捧げている〟

 あるときは狩りに出かけた町の猟師が、またあるときは道に迷った子供が。老若男女問わず、住人も旅人も関係なく、その教会へ足を踏み入れた者は皆、件の幽霊に遭遇している。それは最早噂などで収まる話ではなくなっていた。
 気味悪がった町長は教会を管理している教皇庁に調査を要請する。何度も日程を先送りされた末、漸くの思いで派遣されたのは壮年の神父だった。白い相貌に痩けた頬、灰を被ったような色の髪に鮮血を思わせる赤い瞳という不気味な出で立ちの男だ。漆黒のキャソックを纏っているせいで、どこか死神のようにも見える。左右に前髪を整え、ハーフフレームの眼鏡をかけて理知的な風貌を装っているが、得体の知れなさが拭えない。
「では一度、現地へ赴きましょう。その場で解決できそうなら、一晩で終わると思いますので」
 男は〝アントニオ・サリエリ〟と名乗った。見た目に似合わぬ穏やかな語調で、解決に向けた提案を口にする。まだ取っかかりではあるが、神父の丁寧な仕事ぶりに町長は面食らった。今晩の動きに結論が出て、ええ解りましたと気のない返事をする。
 こんな若造に何ができる。
 見た目は物騒だが、まるで肉が削げ落ちたかのような体躯の男に対し、やはり頼りなさが拭えない。神父もそんな町長の様子に気付いているのか、こんなことを口にする。
「身を清める場所さえお借りできれば、今晩の寝床は特に用意していただかなくて結構です」
 自分は厄介者だとでも言いたいのだろうか。
 その通りだと思った町長は一も二もなく了承した。