「君の愛が欲しい」
泣きそうな(あるいはもう泣いているかも知れない)顔をした男が我に縋り付いたかと思えばそんな戯れ言を口にした。
男――アマデウスは、我の精神が凪いでいるタイミングを見計らって時々このような茶番をする。
始めは悪趣味だと言ってその都度引き剥がしていたのだが、懲りずに繰り返してくるせいで今は放置している。マスターの善なる性質が多少でも影響しているせいか、我も根負けするようになったらしい。
「ねえ、君の愛をおくれよ」
「貴様……まだ言うか」
「いいだろ? 君からの慈悲が欲しいんだ」
ええい、捨てられた子犬のような目をするな!
そもそも何故、我が貴様に慈悲をくれてやらねばならぬ!
尚も縋り付いてくる様はまるで物乞いだ。ずるずると鼻を啜り胸元に埋めた顔の下は、きっと汚らわしい液体に塗れていることだろう。早く引き剥がしてジャケットを清めなければ。
「ゴッドリープ、この死神に何を望むというのだ」
故にこれは、度重なる茶番の末に会得した処世術に過ぎぬ。決してこの男を満足させるために聞いているのではない。精神の均衡が崩れる前に、一刻も早くこの男から離れるために必要なのだ。
男は我の慈悲に顔を上げ、まるで神からの救いを得たように表情を華やがせた。
「あいしてる……って、言っておくれ……」
そして請われた通りの科白を口にしてやる。文字面をなぞるように抑揚を殺して。
普通ならばこんな言葉に心靡く者などいないはず。
だが道化が得意なこの男は、まるで意中の女から花を受け取ったように喜ぶのだ。
「ありがとう……アントニオ……」
そして我を見詰めながら、別な相手に向かって礼を口にする。
嗚呼なんと、気色の悪い。