「ねえサリエリ、雪が見たい」
仕事に忙殺され過ぎた僕らは、ついに妄言でも吐き出したい気分だった。
迫る締め切りに追いかけてくる締め切り。リミットを設定してしまえば、その日は無情にも訪れる。ひとつの例外もなく、だ。何度襲い来るそいつらをなぎ倒し解放感を得ても、抱えている仕事量が多ければまたやってくる。
つまり僕らは今、いよいよ今年も終わるというときに毎度お馴染みの修羅場に遭遇しているという訳なのだ。
こっちも好き好んでこんな尋常じゃない忙しさに身を置いている訳じゃない。
僕としてはむしろ余裕をもってスケジュールを組んでいたはずなのに、度重なるクライアントからの追加要求のせいでそれが延びに延びてしまったのだ。迷惑極まりない。
「違うだろう。貴様、受けた最初は何をしていたか、胸に手を当ててよく考えてみるんだな」
なんか外野から余計なちゃちゃが入ったようだけれど、まあ気にしなくてもいいだろう。
「……で? 藪から棒になんだ。雪なぞここでも見れるだろう」
そう、冒頭に話を戻すが、僕は今、雪が見たい。それもこんなところで見る風情のない雪とは違う、もっと大自然の雄大さを感じられる美しい雪が見たいのだ。少し前にたまたまネットで見かけた極東の雪景色なんて正にうってつけだ。あの島国には、寒い冬でも鮮やかに咲く花がり、雪に埋もれてもなお鮮烈さを損なわない凛とした美を感じた。画面越しでそう感じることができたなら、現物はもっと鮮やかなのだろう。余りにも美し過ぎて圧倒されてしまうかもしれない。
そんな事を、仕事仲間兼同居人兼恋人のサリエリに話したら訝し気な顔をますます歪められてしまった。そして深々と息を吐き、一言「仕事が終わったらな」
「はぁ!? わかってないな、サリエリ! そんな状況だからこそだろ!? 今行かなくていつ行くんだよ!」
「もちろん、受けている依頼が終わってからだ。大体こんな切羽詰まっている状況の何処に旅行なぞ行く暇があると言うのだ」
「そんなもん作ればいいだろ! 僕らカンヅメになってもう
事実、今の僕はとてつもなくパフォーマンスが低下している。何せその二ヶ月の間、生活用品の買い出し以外はほとんど外出できなかったのだ。放浪癖のあることで定評のあるこの僕が、だ。いい加減忍耐も限界と言うものである。
「ねえサリエリお願い。一週間だけ。一週間だけくれたらもう外に出たいなんて言わないから」
だから粘った。それはもう粘った。
持ち得る限りの妥協とパートナーに対するご褒美を、ありったけちらつかせて食い下がる。
そんな僕のただならぬ様子にこれは面倒だと悟ったのだろう。サリエリは本日二度目の盛大な溜め息と共に、ようやく首を縦に振ってくれた。
「……ただし、プランは私が練るからな」
それから一週間後、晴れて僕らは