意識を取り戻す頃には、すでに見知らぬ部屋のベッドで寝転がっていた。天蓋つきの豪奢なキングサイズ。上品な波を刻むシルクのシーツの中央で、サリエリは全裸にされていた。
逃げだそう、という気は起きなかった。全身にのしかかる酷い倦怠感がそれを許さなかったからだ。指一本動かすことすら億劫で、だらりと四肢を投げ出している。思考などとうに放棄しており、光を失ったピジョンブラッドの瞳はぼんやりと天井を見詰め続けていた。
目覚めてから暫く、意識は覚醒へと向かってゆく。すると理性を手放したことでより本能に近付いたサリエリの身体は、後孔に切なさを覚えて身動ぎする。激しい目合いの記憶が蘇り、身体がじんわりと熱を帯びる。
「……ん……く……」
じくじくと疼く胎がさびしくてせつなくて、サリエリは横向きに寝返りを打ちそこへ指を這わせた。
ぽっかりと空いた秘所は三本もの指をすんなりと飲み込む。ぐち、と湿った音をがサリエリの鼓膜を犯す。既に潤滑を持っていた肉壁を擦りながら、欲しい刺激を求めて這い彷徨う。
「んぁぁ……あ、ぁぅ……ぁん……」
肥大しきったソコを執拗に弄り、快感を高めてゆく。こりこりと引っ掻いたり指の腹で押したりして試行錯誤するが、受ける刺激が余りにも生温くてもどかしい。違う。こんな程度ではイくことなどできない。
ほしい。もっと太くて熱くて、凶悪なものがほしい。
「ぁぁ、ぁぁぁ……あああぁぁぅぅぅ……」
「パーパまたひとりであそんでるの?」
「……ッ、ア……!?」
自分ひとりしかいないと思っていた部屋にサリエリ以外の声が響く。咄嗟に手を止めて顔を上げる。誰か、など考えるまでもない。
「……あまでうす……」
「パーパったらさっき赤ちゃん産んだばっかなのにまたぼくがほしくなったの?」
「……ぁ……ぁ、ぅぅ……」
天使を象ったような美しい少年が、長いプラチナブロンドを靡かせてサリエリの許へやってくる。煌めくペリドットだった瞳はサリエリと同じ赤に変わり、妖しく揺らめかせながらクスクスと笑う。やがて辿り着いたベッドによじ登り寝そべるサリエリを起こすと、自分の前に跪くよう命じた。
小さな支配者と大きな従属者とが相対する。膝立ちになってサリエリを見下ろすアマデウスは真っ白なパジャマワンピースをたくし上げて、その中に収まっている凶悪な熱棒を見せつけた。まだ柔らかいが、緩やかに勃ち上がるソレ。僅かに湿り気を帯びるその先端を、見上げるサリエリの頬に押し付けた。
「ほしいならぼくをその気にさせてよ。パーパならできるでしょ?」
そう言ってやれば、哀れな苗床は躊躇なく口を開く。馬のように長大な肉棒を、真っ赤な舌で迎え入れてぱくりと美味そうにしゃぶる。
「んん……んふ、ぁふ……ちゅ、じゅる……」
たっぷり含んだ唾液を絡ませてゆっくり撫で、頬肉と喉で先端を吸い込み、顔を前後に動かして幹を扱く。何度も繰り返した前戯。未だに下手だと言われるが、これでも最初に比べれば大分上達している方だ。
「ん、んっ♡ んぐ……ん、じゅ♡」
そして行為に慣れきった身体はアマデウスを焚き付けているにも関わらず、サリエリ自身も快感を見出していた。もじもじと膝を擦り合わせ、腰が揺れる。緩く硬度を持ち始めた己の陰茎に空いた手を伸ばし、フェラチオと同じ速度で扱いてゆく。カウパー液を全体に塗りたくり、裏筋をなぞるようにして手を上下させてゆき、亀頭に到達するとそこを執拗に擦る。鈴口を圧迫する瞬間に走る、電流のような感覚が堪らなくきもちがいい。だんだん自分の快感を追うことに夢中になり、遂には両手が自分の身体に触れていた。片方はもちろんペニスに。そしてもう片方は自身の乳首に。
「ねえずるいよ」
欲しい刺激が得られなくなったアマデウスはむくれた顔をしてサリエリを引き剥がす。もうすぐイくというところで中断させられたサリエリは再びベッドに沈みながら震えていた。いつの間にか零れていた涙をシーツに染み込ませながら必死に乳首とペニスを弄っている。口からの性感を失ったことでオーガズムは絶望的だった。
「ひとりでかってにイこうとするいけないパーパにはおしおきだね」
「あぁ……♡ あまれうす……♡♡」
アマデウスが顔を近付けると、その科白を聞いたサリエリはへにゃりと笑った。
おしおき、して。蚊の鳴くような声で笑い、両脚を広げてアマデウスを迎え入れようとする。
「いいよ。いっぱいおしおきして、いっぱい赤ちゃんつくろうね」
そしてふたりは唇を寄せ合い、何度目かの苛烈で極上の快楽に身を沈めた。
ふたりだけの部屋。
ふたりだけの時間。
ふたりだけの世界。
ふたりは幸せだった。