刹那、ヒエラルキーの底で死ぬ ※R18 - 2/3

 結局ホテルを出られたのは明朝になってからだった。気怠い身体に鞭打って踏み出した外の世界は、明け透けな快晴が支配している。無理矢理にでも覚醒を促すような太陽光。昨晩の疲労を背負ったままの身体には非常に酷な環境だ。
 それでも一日というのは止まりも振り返りもしない。どれだけ溌剌としていようがどれだけ疲労困憊していようが、万人に等しく訪れ等しく終わりを告げる。ホテルでレイプされそうになりながらも、この特殊な体質のせいで加害者の興を削ぎ未遂に終わった私とて、それは例外ではない。
 そもそもこれは今に始まったことではないのだ。そんな程度のことで平等という理不尽を嘆くほどの繊細さなど、とうに持ち合わせていない。
 とにかく今日は、仕事も予定もない完全オフの日だったという幸運に感謝しよう。スマートフォンを取り出し地図アプリで現在地を確認しながら、遅すぎる家路を急いだ。

   ◆

 その病を宣告されたのは三ヶ月ほど前のことだった。

 人間が子孫を残す上で男女の性別以上に重要な性がある。
 第二の性セカンドジェンダー。それはアルファ、ベータ、オメガと三種類あり、当初私はベータ性を持って生まれた。男が子種となり女が子を孕むという、至極単純かつ平凡なセカンドジェンダーのはずだった。
 医師からは〝雌雄先熟しゆうせんじゅく〟だと言われた。
 つまり、ベータ性であった私はなんらかの切欠でオメガ性に変わったというのだ。膣もない、子宮もない、子を産む器官が何一つ備わっていないというのに、オメガだと言われた。
 医者にかかったのは風邪のような症状が何日も続いたからだった。結果的にそれはオメガ特有の現象――所謂発情期ヒートだとわかった。血液検査でそう言われた。
 待合室で老人同士の会話が耳に入ってくるような遠い心持ちで、医師から症状の説明とオメガの注意点などを聞いた。
 なにひとつ理解できぬまま、最後に言われた言葉だけはやけに耳に残った。

「これからあなたは、オメガとして生きてください」

 と――