いつかの夢の続き

「お前とこうして肩を並べて歩くのが夢だったんだ」
 そう言ってサリエリは、空を仰ぎながら控えめに笑った。その身体には、普段と違う衣類を纏っている。
 背後で行き交う人の喧騒。老若男女様々な声が、笑いながら今日という日を満喫している。
 その視線の先は濃紺の空。チカチカと光りながら大輪の花を咲かせている。人々は、僕らも含めてそんな特別な空に夢中になっていた。
「綺麗だな、アマデウス」
 絡まない視線は、けれど確かに互いを意識し合っていて、僕はその言葉に「そうだね」と返す。
 同じ空を見上げているせいでサリエリの顔は見えないが、嬉しそうな表情をしているのが解った。

「お前とこうして肩を並べて歩くのが夢だったんだ」
 何度目かの告白。それはいつ頃描き出したものなのか、どんなシチュエーションだったのか、僕にはわからない。
 もっと些細な場面だったかも知れないし、あるいはもっとロマンチックな場面だったかも知れない。
 唯一わかるのは、こうして告白する位にはこの状況に少なからず満足しているということだ。
「ねえサリエリ、この花火が終わったら寄りたいところがあるんだ」
 彼が扇ぐ団扇の風が止まったのを感じながら、僕は相変わらず空の花を眺めたまま告げる。まだ何も本題にすら入っていないというのに顔が火照って仕方がない。サリエリも、僕の緊張を感じ取ってしまったのか返事がぎこちなかった。
 急に気まずい空気を作ってしまったが、僕の予定ではこの後最高の思い出になるはずだ。
 浴衣の袖の中に忍ばせておいた小さな箱の感触を確かめながら、フィナーレに近付きつつある花火のド派手なパフォーマンスを目に焼きつける。
 サリエリが思い描いた夢の続きは、僕らふたりで完成させるのだ。