食いっぱぐれ共の舐め合い

「えっちなキス」をテーマに書きました。

 

 仕事を終えた二人は、宵闇に身を潜めながらアジトへ帰還する。
 追っ手の有無に気を配りながらドアノブを捻り、音を立てぬよう開いた扉の隙間に身を滑り込ませると、そのまま縺れるように抱き合った。埃臭い静寂に、二人分の呼吸が荒く響く。獣のような口付け。情緒もへったくれもない有様を揶揄する者は、今頃仕事先で惚れた女としっぽり楽しんでいることだろう。
 邪魔者はいないという共通の認識は、舌の絡み合いを激しくさせてゆく。酸欠の危機を感じた五ェ門がかぶりを振ろうとすると、がさついた両手に顔を固定された。そのまま扉に背中を押しつけられ、口付けはいっとう深くなる。

「ふ、ん……んぅ……」

 じゅるりと口内を吸われ、堪らず抗議の声を漏らす。しかしくぐもったそれは鼻から抜け、五ェ門を喰らう男の劣情をただ煽るだけだった。歯列をなぞられ、頬裏を擽られ、舌を扱かれる。まるで閨で体内を暴かれているような錯覚が過り、背筋を甘い痺れが走った。ずるりずるりと、両脚から力が抜けてゆく。するとようやく、なけなしの酸素を貪っていた男の唇が離れていった。

「五ェ門」
「……ッ」

 それが、耳朶に寄せられる。低く丸みを帯びた吐息がかかり、五ェ門は息を呑む。熱く湿っぽいそれは、確かに獣のような興奮を覗かせていた。無防備な耳孔の縁をぞわりと撫でながら、無遠慮に聴覚を犯してくる。思考が甘く蕩けていく感覚に、ああ駄目だ、と思った。
 同じ人物と何度も共寝していると、相手の悦ぶ場所や苦手な場所が分かってくるものである。閨において五ェ門より経験のある次元に、たった数回の行為でそれを見破られてしまっていた。やれ項が敏感だの首を絞められると締まりがよくなるだの、所謂生死に関わる場所に触れられると、五ェ門の身体はすぐさま花開く。更に仕事終わりの行為ともなれば、弱点の中に〝音〟という項目が加わってしまう。特に、次元の声にはいっとう弱かった。
 耳を通して脳を愛撫されているような甘い感覚が走る。耳孔に生える産毛が擽ったくてもどかしい。まるで前戯を長引かされているかのようで、五ェ門は堪らず腰を揺らめかす。すると気を良くした次元が、ふっと鼻を鳴らした。

「いつもより、よく感じてるじゃねぇか」

 それは余裕をなくした薄ら笑いだった。そっちも我慢の限界だろうに、どうにか優位でいたいらしい。愛い奴め。翻弄されるままだった五ェ門の胸中に、ささやかな悪戯心が芽生える。弱点を熟知しているのは、何も次元だけではないのだ。
 五ェ門は次元のジャケットを握り締めていた指を解き、そろりと持ち上げた。未だに首筋やら耳の裏やらに夢中な獣に感づかれないよう、細心の注意を払って目的の場所へ向かう。袖の先から僅かに覗く手首。その野生的に伸びる毛を弄ぶように指先を這わす。すると耳元で男の呼吸が乱れた。五ェ門の口角が堪らず吊り上がってゆく。てめえ、と抗議する声に腹の底が熱くなった。当然、やめる気はない。

「五ェ門お前ェ、お仕置きされたくてワザとやってンだろ」

 いっとう荒っぽい吐息がかかる。粟立つような快感が全身を襲い、ついに自立できなくなった。

「そうだ、と言ったら?」

 しかし尻餅をついても尚、五ェ門の悪心は止まらない。挑戦的な笑みを浮かべたまま、次元の手を撫で続ける。まるで壊れ物を扱うかのような力加減で手首から手の甲にかけてのラインをなぞり、やがて辿り着いた指の一番長い一本を捕まえて柔く掌の中に収めた。それは五ェ門のなかを最も深く蹂躙する指だった。五ェ門は、まるで手淫を彷彿とさせる手つきで撫で上げてゆく。親指と中指で根元を揉み、骨の括れをなぞり、関節の引っかかりを楽しむ。その延長にある指先に、空いた人差し指の腹を擦り付ける。
 肉刺まめ胼胝たこの夥しい凹凸だらけのそれ。お世辞にも綺麗とは言い難いガンマンの手を、五ェ門はこの世の何よりも気に入っている。
 五ェ門の悪戯が堪えたのか、ガンマンは低く唸った。どこか非難めいた低音に臍の下がひくりと疼く。
 するとついに床へ押し倒された。膝立ちになった次元に覆い被され、両腕を纏めて扉に押さえ付けられる。長い前髪に覆われた髭面が迫ったかと思えば、またしても首筋に沈んだ。無防備なそこに湿った呼気が当たり、五ェ門は恍惚と顎を突き出して仰け反る。
 期待で熱が高まってゆく。じきに訪れる衝撃を想像し、快感に変じてゆく。無意識に引き結んでいた唇を解き、ほう、と息を吐く。
 駄目だ、と思った。

「とんだ変態じゃねェか」

 エナメルの衝撃と激痛。静かな罵声と相俟って、興奮は最高潮に達した。電流を受けたかのように腰が跳ねたかと思えば、がくがくと震えながら絶頂する。凄絶な快感が全身を包む。噛み付かれた首筋の痛みに浸っていると、追い縋るような甘い絶頂に二度ほど襲われた。

「派手にイったな」

 五ェ門の腹は、未だ熾火の如き熱が揺らめいている。

「そういうお主は、まだであろう」

 言いながら縺れた片足を引っこ抜き、草履の裏を次元の股間に押し付けた。