卓上にカード、傍らに西瓜

「鬼の居ぬ間に」管理人の鬼霧さんへ、お誕生日と友情の証ということで押し付けさせていただいたものです!
捧げてからこちらにアップするのをずっと忘れておりました……
漫画版丸藤兄弟で「夏休みに帰省」がテーマのお話です。

 

 来年はいよいよ卒業だから、今年の内に要らない荷物を置いて行こう。
 そんな気持ちで申請した夏季休暇は、奇しくも兄弟が集まる日となった。

 丸藤翔の実家は東北の集落の中だ。最寄りの空港から車で一時間半ほどかかる山の中腹にあり、都心と比べて夏は多少涼しく、冬は大量の雪が降る。
 つまり、公共交通機関の乏しい地域に実家があるのだ。理想は一時間に一本だが、哀しいかな現実は一日に片手で数えられるほど。そのためダイヤに合わせて計画的に乗り換えをしなければ、停留所で半日近く待たされることもざらにある。
 童実野埠頭から実家までは、県を二つほど跨ぐ。翔は入学当時の過酷な移動を思い返し、暑さで茹だる思考にげんなりとしながら船を降りる。港から最寄りの在来線に乗り換えて空港へ向かい、つかの間の休息を取りながら離陸まで時間を潰した。
 フライトは約一時間だ。狭いシートの窓際で、隣席の他人に迷惑をかけないよう身を縮めて過ごすのは実に過酷で、飛行機を降りる頃には疲労が倍になって翔の肩にのしかかった。ベルトコンベアを流れる荷物から自分のスーツケースを掴み、何となく重くなったように感じながらゲートを出て行く。
 到着ロビーを素通りしかけたところで、翔を呼ぶ声がして立ち止まる。聞き覚えを感じて辺りを見回せば、ベンチの前に立って手を振る母の姿があった。母は翔と目が合うと、切れ長の瞳を綻ばせて手を上げた。
 手招く母に応じて、翔は爪先の向きを変える。距離が縮むほどに母の顔が鮮明になっていく。記憶より皺や白髪の数が増えたように感じるのは気のせいか。一年と少し離れていただけで変わってしまった家族の印象。自分も、同じくらいの変化はあるのだろうかとふと思う。
「おかえり。少し見ない間に背、伸びたんじゃない?」
「そ、そう? まだ皆より低いから実感ないんだけど」
「男の子の成長期はまだこれからなんだから、大丈夫」
 そう云って踵を返す母の背中を追いかけ、駐車場の少し外れに停めてあった車に乗り込んだ。
 車窓越しに流れる景色がモノクロから緑に変わっていく。その移り変わりを尻目に、互いの近況について母と少し話す。
 深い緑は夏の証しだ。近所の人から採れたてのスイカを分けてもらったと母から聞いた途端、翔の脳裏に蝉が姦しく鳴きだした。入学するまではただ五月蠅いだけだったのが、思い出せば懐かしさが込み上げる。それだけで、鉛を含んだように重かった身体が軽くなっていく気がした。
 話し込んでいると、時間はあっという間に過ぎていく。やがて実家に到着すると、一年前と変わらない様相で翔の帰宅を受け入れてくれた。
 スーツケースは母が持ってくれた。身軽になった身体で意気揚々と引き戸に手をかける。平日は父が仕事だし、兄はアメリカに滞在中だしで出迎える者は皆無であるはずだが、習慣化したままの脳はその言葉を発さずにいられない。大きく息を吸い、よく通る高い声で家中に行き渡るように声を上げた。

「ただいま!」

 誰もいない代わりに背後の母が返事をしてくれるはず。しかし二拍ほど間を置いて聞こえてきたのは、控え目な足音だった。
 居間に誰かいる。もしかして有給を取った父がそこにいるのだろうか。あるいはスイカを分けてくれた近所の人が、また家に入り浸っているのか。
 翔の脳裏にあらゆる可能性が過る。しかし、示された答えはどれでもなかった。

「おかえり」
「お、お兄さん!?」

 碧色の髪を揺らして現れたのは白皙の顔。彼の纏う服はデュエルアカデミアの白い制服でもなければ、プロリーグで見かけるようになった黒いコートでもない。Tシャツにデニムというラフな恰好だった。
 面食らう翔と、普段通りの無表情で玄関に近付く亮。彼は式台の上に片足を下ろして屈むと、母からスーツケースを受け取ろうと手を伸ばす。そして、ひょい、と音がしそうなほど軽々と持ち上げ、くるりと踵を返した。
 自分で運ぶつもりだった荷物が兄の手に渡った。その事実に遅れて気が付くと、翔は慌てて追いかける。何度か足を縺れさせながら、バタバタと音を立てて靴を脱ぎ捨てていく。
 すると廊下の途中にある階段へ向かっていた亮の歩みが、徐に止まった。緩く振り返り、僅かに目を細めて「転ぶなよ」と云った。
 兄の一言で翔の焦燥は急速に沈静化していく。しかし入れ替わるかのように、今度は頬が熱を帯び始めた。今の自分の顔を見られたら、居たたまれなくなる。

「あっ……まってよ~!」

 そんな気恥ずかしさを悟られまいと、翔は再び廊下を駆けだした。
 兄の歩調は存外にゆっくりで、階段の中腹ですぐに追いついた。翔はいまだ熱を感じる顔を隠すように目を伏せ、黙って兄の後ろをついて行く。
 変わらず大きな背中。けれど何となく、これは本当に現実だろうかと自問したくなる。その理由は、実家で寛ぐ有名人を目の当たりにしたときのような反応をしてしまったからであった。
 そもそも、その有名人の生家こそ、この家なのである。丸藤亮とは自分の実兄であり、本来なら、制服やファイトコスチュームを着ている方が不自然なのだ。
 当たり前すぎる結論だった。今までの思考回路を口にしようものなら、確実に笑われてしまう光景が目に浮かぶほどに愚問だった。叶うなら、帰宅するところまで時間を巻き戻してほしい。翔の顔はいよいよ床を見つめたまま起こせなくなってしまった。
 二階に上がり、数歩進んだ先にある扉の前に二人は立った。階段から程近い所にあるこの場所こそ、荷物の運び先である翔の寝室だ。懐かしい感覚に緊張しながらドアノブを捻ると、一年前と変わらない様相の部屋が翔を出迎えてくれた。整然と並ぶ本棚、いくつものミニカーで彩られた勉強机。更に、ベッドに駆けられている布団は夏仕様になっている。いつ帰ってきても快適に過ごせるようにと、定期的に母が掃除をしてくれていたからであった。

「荷物はここでいいか?」

 一緒に生活したままでは気付かなかっただろう母の優しさに胸を打たれていると、いつの間にか入室していた兄の一声で我に返る。タンスの側の床にスーツケースを置こうとしており、翔は慌てて「うん」と頷く。成り行きとはいえ、そろそろ自分も動かなければならない。そうして兄の許へ近付こうと、数歩踏み出したそのとき。

「翔、亮、素麺できたよ」

 母の声がして立ち止まる。振り返ると、下階から顔を出す声の主と目が合った。

「お昼にしよう」

 彼女はそう云うと、息子の返事も待たずにさっさと踵を返して去ってしまった。そんな母を見送った途端、翔の腹の虫がぐう、と鳴る。
 部屋の奥にいる兄が翔を見ていた。兄は溜め息交じりの笑みを浮かべて「腹減ったな」と云いながら立ち上がる。

「行こう」
「うん」

 二人は、縁側に置かれた素麺の大皿を挟むような位置取りで腰掛けた。箸とつゆを手に、足をぶらつかせながらズルリと音を立てて食べていく。氷水で締まった麺が喉を通るたびに、翔は自身の体温が下がっていくような心地よさを覚えた。
 爽やかな喉越しとつゆの塩気。そして彩りを加えるかのように広がる自宅の庭。じりじりと照りつける太陽に焼かれて、いつもより色鮮やかに見える。そこかしこで騒ぐ蝉の声すらも味を引き立たせてくれている気がして、翔の箸はよく進んだ。

「そういえばお兄さん」

 隣を見なくていい今なら、聞ける気がした。翔は庭の上を流れる雲を眺めながら、重い口を開く。

「プロリーグのオフって何かイベント無かったっけ?」

 一旦口にしてしまえば、言葉は芋蔓式に続いていった。兄に一瞥され、僅かな間を置いてから「ああ」と視線を戻す。

「中堅以上の花形選手なら、今頃エキシビションマッチに出場してるだろうが、俺はまだ新人だからな」
「そっか……」

 学園で皇帝カイザーと呼ばれた男であっても、プロの世界に身を置けば、その肩書きは意味を成さなくなる。当たり前のことだが、何かしら優遇されるかも知れないと無意識に淡い期待を持っていたらしい。平然と事実を口にする兄とは対照的に、翔は肩を落として落胆する。
 そんな翔の頭に、兄の大きな掌が乗った。柔らかな重みが、沈む心を少しだけ支えてくれる。
 兄は「そんな顔をするな」と云った。

「そういえば今日は新しいパックの発売日だったな? 明日、街まで買いに行こう」

 僅かに浮ついた語調は、兄の科白がただ弟を慰めるためだけではないことを示していた。少しだけ顔を上げると、涼やかな双眸が期待に煌めいているのがわかる。
 その煌めきに、翔は既視感のような違和を覚えた。

「うん」

 ――あれ、その正体は何だろうか。

◆◆◆

 荷解きを進めたり、久し振りの実家で寛いだりしていると、時間はあっという間に過ぎていく。学園生活の慌ただしさに慣れきってしまった翔の意識は、急速に堕落していく。
 三時に出されたスイカを食べたあとは、縁側に寝そべって夏の湿気と温度を甘受していた。特別楽しい訳でもないのに、もくもくと流れてゆく雲を眺めるのが心地好い。
 兄はいつの間にかいなくなっていた。きっと、部屋に籠もって新発売のカードの情報でもチェックしているだろう。
 ときどき母がやってきては、「宿題は?」と耳の痛い質問を落としてくる。けれど意識も身体も鈍磨した今は、ただの音として耳を素通りしていく。
 そうして怠惰に時間を垂れ流していれば、いつの間にか陽は沈み、そして夕食の時間がやってきた。
 七時を過ぎる頃には父も仕事から帰宅し、数年振りに一家全員が揃うことになった。そのせいなのか、卓上に並ぶ料理が少し豪勢に見える。
 翔の向かい側には兄が座った。食卓を彩る料理を前に手を合わせ、そして箸を取る――そのときだった。

『――――!』

 歓声と音楽の混ざった雑多な音。まるで巨大なスタジアムの中にいることを錯覚させるそれに、翔も亮も手を止めた。
 料理を捉えていた視線を上げる。そこには、食事を忘れてテレビに釘付けとなっている兄がいた。切れ長の瞳を僅かに見開き、まるでそこだけ時が止まったかのように静止している。
 彼が何に夢中になっているのか。弟である翔は手に取るようにわかった。
 実況役のアナウンサーが、熱を込めた語調で番組の開始を告げる。今日の解説役は、デュエル・マガジンでコラム連載を持つほどに有名な元プロデュエリストだ。眩いスポットの当たるスタジアムの中心には、二人の著名なデュエリストが。しかしプロではない。
 会場となっているアメリカで、この時期に中継されるデュエル大会は〝マスターズ・リーグ〟と呼ばれる。現役を引退した元プロデュエリストが参加する大会で、トーナメント形式でありながら、実際はエンターテインメント的要素が強い。その理由は、禁止、制限などのレギュレーションが、過去のプロリーグで適用されていたものを可変的に反映させていること。そして、参加するデュエリストが用いるデッキのほとんどは、現役時代に使用していたものであることだ。これはデュエル・モンスターズを、多様な層から愛される娯楽にしたいという意図があるからだろう。そのお陰か、客席には老若男女問わず、熱の籠もった眼差しで選手に集中しているのが映っている。
 それはテレビ中継で観戦する者も同じであった。現役のプロデュエリストである亮も、プロデュエリストを目指している翔も、会場と同じ眼差しで贔屓の選手を注視している。現役の頃より白髪が増えていたり、体型が大きく変わっていたりして、引退後の変化は著しいが、デュエルディスクを構えて立つ姿は当時を想起させた。
 デュエル開始のゴングが鳴る。途端に画面は目まぐるしく動き始め、兄の身体がじりじりとテレビ画面に引き寄せられていく。比例するように口角も上がっているのだが、当の本人は気付いていないだろう。
 次々と召喚されるモンスター。その怒濤のような展開を、対者はじっと目を凝らして耐えている。手札のカードに触れ、引き抜きかけたところで手を離す。彼は相手の展開を阻止するカードを握っている。彼は、相手が最も痛手となる瞬間を狙って、そのカードを切ろうとしているのだ。

『俺は、場の○○の効果を発動!』
『させんッ、手札から△△の効果発動!』

 会場のどよめきと、兄弟が息を呑むのは同時だった。やはりデッキからカードを手札に加える相手の効果を止めてきたのだ。しかし相手としてもその動きは想定済みのようで、すぐさま手札からカードを引き抜いてその効果を阻止する。

「ああっ」
「ふっ……」

 落胆する翔、安堵の混じった笑みを浮かべる亮。兄の推すデュエリストの現役時代は、連覇経験があるほどの実力者だが相手より高齢でもある。高度な読み合いと複雑を極めるカード効果の読解力を求められるこのゲームにおいて、老化は最大のハンデだ。にも拘わらず、彼のデッキは非常に完成度が高く、本戦の場に立っても一定の成績は収められそうに見えた。
 まだ一ターン目にも拘わらず、会場の熱気はまるでデュエル終盤だ。何故か後手であるはずの彼も、先攻の動きに反応して次々と効果を発動し、場にモンスターを並べている。どちらが先に盤面を制圧できるのか、陣取り合戦染みた応酬に、二人は呼吸すら忘れてただ見入っていた。
 モンスターを出し、攻撃し、ライフポイントを削り、罠を張る。これを繰り返し、一進一退の攻防――もとい膠着状態が続く。何度も手番が変わり、互いのライフポイントも残り少なくなってきた頃、水面下で周到に準備されていたコンボがついに炸裂する。

『俺は手札から、○△を発動!』

 先に撃鉄を起こしたのは高齢のデュエリストの方だった。対者はすかさず速攻魔法を発動させるが、カウンタートラップによって阻まれてしまう。最速のスペルスピードを持つカウンタートラップを阻止できるのは、カウンタートラップだけ。本戦であまり見ることのなくなったカードが、相手の盤面に痛手を負わせた。
 このターンで確実に仕留めるために展開されていくコンボ。狙うはただひとつ、対者のライフポイントいのちだ。邪魔な壁を一掃し、切り札を顕現させる。その攻撃力をは周囲のサポートカードによって急速に上昇し、いよいよ相手のライフを上回った。
 巨大なドラゴンが一体、悠然と立ち対者を見下ろす。

『――――!!』

 客席が沸騰する。これまで冷静にプレイングについて解説していた実況者の語気が荒くなる。現地も中継も、このデュエルを観戦している誰もが、彼の勝利を確信する。それは、食事も忘れて釘付けになっている兄弟も例外ではなかった。
 バトルフェイズに移行し、高齢のデュエリストが切り札たるドラゴンの攻撃を宣言する。ドラゴンは口にエネルギーを溜めると、予備動作の後に勢いよく光線を放った。破壊衝動の塊のような白が、画面を塗りつぶしていく――

『墓地から、□□の効果発動!』

 しかしこの攻撃がトドメになることはなかった。
 彼は間一髪のタイミングで一体のモンスターを召喚した。そのモンスターは、自分が受ける戦闘ダメージを相手に跳ね返すという効果を持っている。
 たった一枚のカードで形勢は逆転し、同時に勝敗も決した瞬間であった。

「……勝っちゃった……」
「……あのカード、いつの間に……」

 リビングが、しんと静まりかえる。ギリギリの逆転劇に、現地の会場も奇妙な静寂に包まれた。二呼吸ほど置いて、一番に現実へ戻ってきたのは実況者だった。湧き上がる興奮のまま勝利宣言を叫ぶと、それに連動するかのように客席も叫んだ。
 スピーカーから聞こえる音が割れている。それほどの熱気に、翔の胸が徐々に高鳴っていく。

「すごい試合だったね……!」
「ああ」

 ゆっくりと息を吐くと、無意識に強張らせていた筋肉が解れていく。こめかみを伝う汗のぞわりとした感触が、相当の緊張状態だったことを知らせてくれる。そう思うと、どっと疲労が押し寄せてきた。喉の渇きを覚えて食卓へ視線を遣ろうとして、何となく兄の表情が気になった。

「……お兄さん?」

 どこかへ意識を置いてきてしまったかのような横顔が、テレビ画面に視線を向けたまま硬直している。一見すると放心しているようにも取れる表情だが、その唇が小さく「そうか」と象ったのを、翔は見逃さなかった。

「あのとき……○△の発動に速攻魔法を発動させていただろう?」
「そうだね」
「あれを発動させるには手札を一枚捨てなければならない」
「しってる」
「彼はそのコストすらも逆転の布石として利用したんだ」

 兄の語調に熱が籠もっていく。比例して、白い頬にうっすらと朱が浮かび上がる。深い水底のような瞳にきらきらと光が散ると、落ち着かなさそうに上体を揺らす。それはまるで、彼自身がデュエルしてきたかのような様子であった。

「すごい……現役を引退して随分経つのに、まだこんな無駄のないデュエルができるなんて……!」

 少年のような表情が、ぐるりと翔の方を向く。その興奮しきった顔は、学生の頃すら数えるほどしか見たことがない。勢いに圧倒されつつ、ふと、その白皙の上に別の顔が重なった。

「あっ……」

 鳶色の双眸が兄以上の輝きを放ちながら翔を見ている。その瞳から、すげーな、とか、こんなワクワクするデュエル初めて見たぜ、とか――

「翔、久し振りにデュエルしないか?」

 ――翔、はやくデュエルしようぜ!

 兄との声が重なり、翔は堪らず吹き出す。

「ふふっ」
「どうした?」

 それはほんの些細な切っ掛けだ。類似点とするにはあまりにも小さい。それでも〝デュエル馬鹿〟を体現したような男にどうしてついて行こうと思ったのか、今なら少しだけわかる気がする。
 翔は首を振って「なんでもないよ」と云った。

「じゃあ、後でお兄さんの部屋に行ってもいい?」
「ああ、わかった」

 今すぐにでも席を立ちたい衝動を、それまで静観していた母の一喝で現実に引き戻される。呆れ顔の父に気恥ずかしさを覚え、兄弟は互いを見合いながら照れ隠しに笑った。
 来年の卒業に備えるための帰省。今までの夏休みと同じように怠惰を貪って宿題に追われるだけかと思っていたが、少なくとも今年は退屈しなくてもよさそうだ。
 二人は完全に出遅れてしまった夕食を再開させた。懐かしい我が家の味に舌鼓を打ちながら、半ば掻き込むようにして食べ進めていった。