【5/4 新刊サンプル】Dekadenz und Verblendung - 3/3

【R18シーン】

 丸藤亮は、意識を取り戻しても無抵抗なままだった。状況が呑み込めないという風でもなく、これからやってくる暴力を、観念して甘受するつもりのようだ。彼が云い訳をしない男であることは、この短時間で十分に理解できたが、いっそ被虐的とも取れるほどの潔さはいまだに理解不能である。その態度こそが、猪爪をどうしようもなく苛立たせた。
 露出させたままだった亮の下半身は力を失いかけている。しかし腰を掴んで持ち上げれば、性交の名残が濃く残っていた。盛り上がった縁はてらりと光沢を纏っており、一見するとこのまま入れても問題ないように思える。
 確認する気はなかった。そのまま自身の性器を勃起させると、中を慣らすことなく挿入する。白い身体が、ぎくりと硬直した。

「いっ……ぐ、ぁ……」

 先ほどとは比べものにならないほどの摩擦が、猪爪の侵入を拒む。それすらも猪爪自身を否定されているような気がして、いっそう腹を立てた。襞が不自然な発熱を始めたが、構わず力任せに腰を押し進めていく。

「……はぁ、ア、が……ァ……」

 対する亮は痙攣する身体を少しでも弛緩させようと、呼吸に集中しているようだった。潰れた蛙のような苦鳴が混じりつつも、必死に肺を動かしている。探るように自身の身体を這い回る、彼の白い指。たくし上げられたインナーの胸元を、押さえ付けるようにして掴む。または、苦痛をやり過ごしたいのか、穴だらけのシーツの上を泳ぎ、その脆い布地を指先で掻き集める。動きが激しくなったことで、彼の周囲に堆積していた埃や塵が一気に舞い上がった。
 窓から差し込む月明かりを受けて、部屋のあちこちに星屑のような煌めきが漂いだす。一瞬だけその幻想的な光景に目を奪われていると、不意に下の方から激しく咳き込む声が聞こえた。視線を落とすと、横様になろうとしてできなかった体勢のまま、背中を丸めて震える亮の姿があった。
 頭に血が上っていく。いてもたってもいられなかった。

「……ッ、逃げるな!」

 落ちかけていた腰を抱えなおす。全体の三分の二ほど終わっていた挿入を再開し、残る三分の一を押し込んだ。

「ぐっ、はっ……ぁあぁぁああぁぁ……!」

 がくん、と仰け反る肢体。いつの間にか潤滑が増えていて、挿入が楽になっている。猪爪は目を細めた。きっと中が切れたのだろう。彼が苦痛で悶えて苦しむのなら、構いはしなかった。

「っ、あぁ、ひ、い、ぅ……っ」

 ゆっくりと抜き差しを繰り返す。自身の精を肉壁に塗り込んでいくと、彼は上擦った声を上げて腰をくねらせた。時々声が詰まるのは、痛みで喉が緊張するからだろう。
 眉を寄せて喘ぐ様は、ひどく扇情的に見えた。固く瞼を閉じて、歯を食いしばって――そうやって痛みに耐えていたかと思えば、堪らず綻んだ唇からは甘い声が漏れるのだ。女の喚くような猫なで声とも違う。本気で感じ入っているときの声だった。
 彼は痛いと云わない。表情からはたしかに痛みを感じているようだが、それ以上に快感が強いのか、言葉で訴えるという発想に至っていないようだった。

「どうしたァ? っ、無理矢理、されるのが、好きなのか」

 そう云って彼の羞恥を煽ろうにも、そもそも彼は自分を犯す相手を見ておらず、全く効果を成さない。まるでひとり遊びのような虚しさが込み上げてきて、猪爪は徹底的に彼の弱点を追い詰めることにした。ゆっくりと腰を引いていきながら角度をつけ、そして前立腺を目がけて一気に突き上げる。

「んあぁっ!」

 ごり、という感触と同時に、彼の身体が跳ね上がった。その一瞬で中が激しく蠢き、猪爪の性器をぎゅう、と締め付ける。下腹部は奇妙な浮沈を見せ、それぞれの手は、自身の身体とシーツを掻き毟っている。パサパサと乱れる髪は、これ以上の侵入を拒むかのようだ。今さら訴えたところでもう遅い。
 力を失いかけていた亮の性器は、緩く勃起していた。やはり欲求不満だったのか、まだ柔らかいままにも拘わらず先走りを垂らしている。その量は、眠っていた頃よりもずっと多い。

「うぅ、は、ぁぁ……んっい、」

 突き上げるたび、亮の声は艶めかしいものへと変わっていく。たしかに男の声であるはずなのに、猪爪は女と性交しているかのように錯覚する。彼の性器に視線をやっても、中の感触が女の膣にそっくりなのだ。柔らかくて、ぬめっていて、突き上げれば締め付けてくれる。そして、蕩けるような熱さ。
 これが、男の肛門の中であるはずがない。

「あぅ……あ、は……ぁあぁ……はぁ、はぁ」

 腰をくねらせて身悶えている。汗ばんだ額や頬には髪が貼り付き、鬱陶しそうに首を振った。声の様子から、まだ絶頂には遠そうだ。快感を得ているのは確実だが、まだ少し、わざとらしい。
 猪爪は、前立腺側を押し上げながら奥を目指す。すると、彼の臍下が僅かに盛り上がるのがわかった。注視しなければ気付かない程度の、なだらかな膨らみ。むくむくと、邪な好奇心が湧いてくる。そろりと手を伸ばし、彼の臍下に触れて――ゆっくりと力を込めた。

2023年4月23日