灰色のソファーで、私はぐったりと身体を預けている。しかし手だけは何とか動かそうと、それなりに神経を張って服をたくし上げる。白い肌に点在する青黒い痣。それを刻んだ張本人たる金髪の同居人は、まるで叱られた子供のようなしおらしさで私に縋り付き、手当を施している。
「……ッ!」
「っごめんね……痛かったろ」
切れた箇所から消毒液が染み込み、私の神経を刺す。反射的に顔を歪める私を見て、アマデウスの表情はいっとう悲愴さを増した。
些細なきっかけで、私は彼の逆鱗に触れ、手を上げられ、意味を成さない治療を施される。壊れたテープの様に繰り返し行われる行為。周囲の知人は、そんな私に早急な絶縁を何度も進めてきた。
私は応じなかった。別に彼の執着が恐ろしい訳ではない。言うなれば片方が狂っていれば、引き寄せられたもう片方もまた、狂っていたという事なのだ。手を上げられる瞬間は確かに痛く、苦しい。病院の世話になった事もある。
しかし今、こうして私に縋り、増やした傷を消さんと無意味な治療行為をする彼が愛おしくて堪らない。
意味などあるはずがない。どうせまた増えるのだから。それでも懲りずに沈鬱な顔で消毒液を垂らす姿が、私には堪らなく哀れで、愛おしいと思うのだ。
不器用な彼が向ける、寂しさにも似た愛情。痣の数だけ、彼は寂しいと、独りにしないでと叫ぶ。
それを埋めてやれるのは――私だけ。