手にしたアイスクリーム・タコスを食べ切る前に次のスイーツショップへ足を運ぶ。
店内では凡そ自然では出せない様な色合いのアイスクリームがショーケース一杯に並んでおり、サリエリは年甲斐もなくキラキラした眼差しでそれらを眺めていた。どれにしようかと悩みながら、彼は溶けかけのスイーツを胃の中へ収めてゆく。
悩んで、食べて、また悩んで。
そうしてあっという間にスイーツは姿を消していた。
「Scusi.注文をお願いしたいのだが――」
しかし無くなってしまえば新たな商品に手を出すまで。サリエリは息つく暇すら惜しいと言わんばかりにショーケースに並んだアイスクリームを選び取る。
散々悩んだ挙句、頼んだアイスクリームは殆ど全部であった。
サリエリが買い込んだのはアイスクリーム・サンドイッチと呼ばれるもので、カラフルなアイスクリームをクッキーで挟んだ、至ってシンプルなスイーツである。しかしサリエリいわくハンバーガーの要領で挟むクッキーにも幾つか種類があるらしく、同じアイスクリームでも組み合わせによっては風味がガラリと変わるのだそうだ。
そんなありがたい講釈を滔々と述べながらブラックホールよろしく次々と口の中へ放り込んでいく様は、圧巻を通り越して恐怖すらしてくる。
「ねえ……キミってばいつもそうなの?」
次のスイーツショップへのルートを確認しながら歩を進める男の背を眺め、アマデウスの姿を借りた〝僕〟は思わず足を止めた。
「我……と言うよりは〝サリエリ〟だな。恐らく食事を必要としないサーヴァントになった事で生前では味わえなかった甘味を摂取したくて堪らないのだろう」
「物凄く冷静に言ってるけど、その〝サリエリ〟の自我って欠片しかなかった筈だよね? 強過ぎでしょ」
「まぁ、それもそうだが……どうやらこの地において我は〝サリエリ〟の影響を強く受けてしまうらしい。……ほら、その証拠に――」
我は貴様を襲っていない。
いつの間にか振り返っていたサリエリが、〝僕〟を見つめていた。
その紅に光る双眸には宿る筈の殺意はなく、ただ真っすぐ真摯に射抜いている。けれど澱みのない精悍な顔つきをしていても、口元には先ほど大量に買ったスイーツのトッピングが散らばっていて余りにもちぐはぐだ。
〝僕〟は目を細めた。
「そう……キミは僕のことを〝アマデウス〟だと認識してくれてるんだね」
そして、呟く。己と相対する男には聞こえぬように。
「なら好都合じゃないか! せっかくリゾート地に来たんだ。キミの気が済むまで付き合ってあげるよ」
そして、歩く。目の前で食べ足りなさそうにしている灰色の男の手を取って。
燦々と照り付ける日差しに肌が焼かれる錯覚を起こしながら、一軒、また一軒と、〝アマデウス〟では描けぬ夢を見せ続ける。
いつか訪れるであろう、この男が〝僕〟の名前を呼ぶ、その時まで。